都内の一等地に児童相談所を建設する計画が浮上したことで注目を集めている、南青山(東京都港区)。「高級ブティック街」、「最先端のファッションの街」として知られており、そのような場所に児童相談所を建てることはふさわしくないという反対意見が提起されていると報じられた。
児童相談所の建設の賛否はともかく、この街に関する報道内容に違和感があると述べるのは、当サイトの読者であるアパレル業界の関係者だ。同氏は長い間、南青山や表参道周辺に勤務し、一帯の事情をよく知る人物である。これまで報じられてきた街についてのイメージが、あまりにも一面的だというのだ。
第一に、地元の人々のイメージは必ずしも「高級ブティック街」ではないという。裏通りへ一歩入れば、古くからこの地に住んでいる人々の住宅もある。また、近頃は一時期よりも増えてきたとはいえ、景気のよかった時代と比べれば、ファッション関連の店舗はかなり減ったそうだ。
それに代わって増えたのが、カフェをはじめとする、手ごろな価格の飲食店だ。その中には、チェーン店も少なからず含まれる。「数年前、リサイクルショップが短期間のうちに増えた時期もありました。その時も『街のイメージが壊れる』と嘆いた人がいましたが、そういった店は売り上げがあまり伸びず、自然に減りました」。
不況との関連でもう一つ注目したいのは、空き物件の問題だ。店が立ち退いた後に空き物件となり、なかなか埋まらないことが多い。「骨董通り」と呼ばれる大通りも、一時期は店が激減した。だが、ここ数年、いろいろな店が再び入るようになったという。児童相談所の建設計画が浮上した空き地のある裏通りも、不況の影響を受けてきた。
「付近には、ずっと空いたままの建物がいくつもあります。この夏にもセレクトショップが閉店して、空き物件が増えました」。さらに、「魔のスポット」と一部の人々から呼ばれている場所があるという。新しい店が入っても長続きせずに閉店してしまうことから、そのように呼ばれるようになった。
「ロベルト・カヴァリ、ヴェルサス・ヴェルサーチといった、海外の高級ブランドが立て続けにブティックを開きましたが、いずれも短期間で営業を終了しています。ヴェルサスはオープン時にメディアでも報道されて話題になりましたが、2年半ほどで閉店しました」。こうした傾向が、以前から続いてきたというのだ。
ヴェルサスが閉店後、最近になって別のブランドが入店したというのが現状だ。「この辺りは一般的にテナント料が高いですから、ある程度の売り上げが見込めなければ、いつまでも店を構えていることは難しいのです」。ただし、同じ「南青山」といっても、場所によってテナント料にかなりの差があるのが実情だという。
児童相談所の建設計画がある空き地を訪れると、スマホで撮影している男性がいた。話を聞いてみると、近くに勤務しているそうで、マスコミ報道を見て訪れたという。「この近くをいつも通っていても、そんな計画があったなんて知りませんでした」。他の地域から南青山に通勤している人々と地元住民、その「温度差」を実感せずにはいられなかった。
高橋